この記事の結論
お灸の3つのツボ(中渚・三間・厲兌)が更年期のめまい・ふらつきに役立つかどうかは、現時点では研究で確かめられていません。ただし、鍼灸の臨床では古くから使われてきた組み合わせです。めまいの原因は一つではないため、まず医療機関で確認したうえで、補助的に試す位置づけです。
更年期の前後にめまい・ふらつきがあり、病院で「更年期障害」と言われても症状が続いている40〜60代の女性。ほてりや不眠など更年期の自律神経症状全般は【更年期障害】自律神経失調症の正体|ほてり・不安・不眠の整え方へ。耳が詰まる・耳鳴りが強い回転性のめまいは【メニエール病】めまいが楽になる手のツボ|威霊・精霊をご覧ください。
この記事では、大阪の木もれび鍼灸院・院長 弓削周平(鍼灸師・臨床経験27年)が、動画で紹介した3つのお灸のツボの場所と注意点、そして研究で分かっていることを整理します。「病院で異常なしと言われたのに、ふらつく」のは、あなたのせいではありません。ちゃんと理由を探していきましょう。
更年期にめまい・ふらつきが起こるのは、なぜか?
動画で話したこと
更年期前後のめまい・ふらつきには、3つのタイプがあると説明しました。1つ目は、耳の中の「耳石(じせき)」がはがれて起こる、ぐるぐる回るめまい(良性発作性頭位めまい症)です。2つ目は、ホルモンバランスの乱れで脳が過敏になり、光や音に強く反応する状態です。3つ目は、自律神経の乱れで血圧や血流の調節がうまくいかず、立ったときや疲れたときにふらつく状態です。
研究で分かっていること
閉経後の女性を大規模に追跡した英国の研究では、ホルモン補充療法を使った人のほうが、耳石由来のめまい(良性発作性頭位めまい症)と診断されやすい関連が示されました。著者は、この結果は仮説を立てるための段階であり、個人の治療の判断材料にはならないとしています。
一方、日本の耳鼻科を受診した40〜59歳のめまいの患者さんでは、閉経に伴う症状がある人とない人で、耳石由来のめまいの割合に差はありませんでした。
つまり、「更年期だから耳石がはがれやすくなる」とは、今の研究では言い切れません。研究の結果は、まだ一致していないのが現状です。
確度:耳石によるめまいの仕組みは、確立した生理学です。更年期との関係は、研究の結果が一致していません。ホルモン低下→セロトニン不足→脳の過敏は機序的仮説で、今回の文献検索では人を対象にした研究を確認できませんでした。血圧や血流を自律神経が調節するしくみは確立した生理学ですが、更年期のめまいとの関係を調べた研究は、今回の検索では確認できませんでした。
動画では、3つの仕組みを更年期のめまいの原因として整理しました。しかし、この3分類を確かめた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。「更年期だからこの3つが起こる」と断定できる段階ではありません。
こんなめまいは、お灸の前に医療機関へ
めまいは病名ではなく、症状の名前です。内耳の病気、血圧の変化、脳の病気など、原因によって対応が変わります。めまいの総説でも、正確な診断が治療の前提だとされています。
動画でも、お灸は病院の診察や治療と合わせて行うようにお伝えしました。次のような場合は、お灸を試す前に受診してください。
- 突然の激しいめまいに、ろれつが回らない・手足のまひやしびれ・物が二重に見える・激しい頭痛が伴うとき(すぐに救急受診)
- 聞こえにくさ・耳鳴り・耳のつまりを伴うとき(耳鼻科。突発性難聴の鍼灸治療についてもご覧ください)
- 立ちくらみで失神しそうになる、動悸や息苦しさがあるとき(内科)
お灸で使われる3つのツボは、どこにあるのか?
動画で紹介したのは、中渚(ちゅうしょ)・三間(さんかん)・厲兌(れいだ)の3つです。昭和の鍼灸家・深谷伊三郎(ふかや いさぶろう)が、めまいに組み合わせて使ったと伝わっています。手のツボは2つとも、握りこぶしを作って探します。
中渚(ちゅうしょ)
場所:手の甲で、薬指と小指の間です。
取り方:握りこぶしを作り、薬指と小指の間の骨のきわを、手首側から指のほうへたどります。骨が終わるところが目安です。
三間(さんかん)
場所:人差し指の付け根の関節の、親指側です。
取り方:握りこぶしを作り、人差し指の関節の横じわの先端を探します。
厲兌(れいだ)
場所:足の第2趾(親指の隣の指)の、爪のきわの中央です。
取り方:爪の根元ではなく、爪のきわの中央に取ります。
手のツボは、左右とも同じ位置に取ります。深谷は著書の中で、三間と中渚は手を固く握って関節をはっきり出して取ると書いています。また、経穴書では厲兌を爪の外側の角から1分離れた位置としますが、深谷は爪のきわの中央に取るほうがよいと述べています。この記事は、動画と深谷の取り方に合わせました。
深谷伊三郎の臨床報告では、めまいへのお灸をどう考えているのか?
深谷伊三郎は著書『お灸で病気を治した話 灸堂臨床余録・第1集』(鍼灸之世界社)の第19章「めまいと灸」で、自分の臨床経験を書いています。ここでは、その記述の範囲だけを紹介します。
深谷が書いていること(意訳)
- めまいは病気そのものではなく、一つの症状である。高血圧、内耳の不調、眼の疲れ、婦人の「血の道」(ホルモンの乱れや更年期を含む)など、さまざまな原因で起こる。
- 根本の治療には、原因を見つけて対処することが必要である。そのうえで、つらいめまいの症状は、この3つのツボへのお灸でいったん取り除けるという。
- 苦痛を取ってから根本の治療に進めば、患者さんは助かる、という考えである。
- めまいのある人は、これらのツボで熱さを感じにくい場合が多いと述べている。
深谷が紹介した症例は2つです。1つ目は、「地震を背負って歩いているよう」と訴えた52歳の男性(布団仕立業)で、三間・中渚・厲兌に半米粒大のお灸を各10壮すえたところ、立ち上がってもふらつかなくなったと報告しています。2つ目は、車に乗ると酔って吐き気とめまいが出る28歳の女性で、厲兌に20〜30壮すえたところ、帰りのバスで酔わなかったと報告しています。
どちらの症例も、更年期のめまいではありません。1人の施術者の臨床報告であり、確度は経験的示唆にとどまります。更年期の女性に同じ結果が出る根拠にはなりません。
動画では、1回のセットは3回までとお伝えしました。深谷の症例では、半米粒大のお灸を10〜30壮すえ、熱さを感じるまで続けています。数字が大きく違うのは、深谷が施術者として、小さなもぐさを使い、状態を見ながら行ったためと考えられます。セルフケアのお灸と単純には比べられないため、この記事では安全のため動画の「3回以内」を採用します。「熱さを感じるまで続ける」ことは、やけどの危険があり、セルフケアとしてはおすすめしません。
お灸でめまい・ふらつきは楽になるのか?
動画で話したこと
お灸を毎日続けると、「今日は左が熱い、明日は右が熱い」というように、熱さの感じ方が日によって変わります。やがて左右が同じように熱く感じられるようになると、末梢の感覚が整い、自律神経の調節につながり、めまいが徐々に楽になる可能性があると説明しました。ただし、完璧に効くわけではないこともお伝えしました。
研究で分かっていること
灸だけでめまいを調べた研究と、更年期の女性を対象にした研究は、今回の文献検索では見つかりませんでした。近い研究として、頸部が原因と考えられるめまい(頸性めまい)を対象に、鍼や灸、マッサージ(推拿)を比べたネットワークメタ分析があります。鍼に灸を組み合わせた治療が、マッサージ単独より良い結果だったと報告されています。ただし、灸は鍼との併用として含まれており、灸だけの効果は分かりません。
確度:お灸が熱さの感覚を変えること自体は、経験的示唆です。矢印でつないだ全体の流れは未検証で、今回の検索では確かめた研究を確認できませんでした。
動画では、熱さの左右差が整うことが自律神経の調節につながると説明しました。この仕組みを確かめた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。現時点では「そう考えられている」という段階です。
動画で紹介したお灸のセルフケアは、どう行うのか?
次の方法は、医療機関で原因を確認したうえで、補助的に行う場合の目安です。
動画で紹介した手順
- 手の中渚・三間(左右)と、足の厲兌(左右)の位置を確認する。
- 市販の台座付きのお灸(千年灸など)を、同じツボの左右に同時に当てる。
- 熱さを感じたら、そこで終える。これを1セット3回までとする。
- できれば毎日続ける。
やけどを防ぐために
糖尿病などで皮膚の感覚が鈍い方、皮膚が弱い方、妊娠中の方、持病や服薬のある方は、始める前に主治医や鍼灸師に相談してください。動画では、病院の診察や、漢方薬との併用をおすすめしました。
※効果には個人差があります。痛みや違和感がある場合は中止してください。
セルフケアで変わらない場合は
めまいが続くときは、原因の確認が先です。上でお伝えした受診の目安に当てはまる場合は、医療機関を受診してください。更年期の不調を東洋医学でどう整理するかは【更年期障害】東洋医学の考え方|鍼灸・漢方でできることと研究の現状に、自律神経のセルフケアは【更年期障害】自律神経失調症の正体|ほてり・不安・不眠の整え方にまとめています。
当院では、呼吸や自律神経の面から身体を整える施術を行っています。詳しくは【横隔膜刺鍼】更年期の不調は呼吸から|呼吸で整えると自律神経失調症の鍼灸治療についてをご覧ください。一人で抱えなくて大丈夫です。
よくある質問
更年期のめまいに、お灸は役立ちますか?
役立つかどうかは、現時点では研究で確かめられていません。灸だけでめまいを調べた研究や、更年期の女性を対象にした研究は、今回の文献検索では見つかりませんでした。医療機関で原因を確認したうえで、鍼灸の臨床で使われてきた方法を補助的に試す位置づけです。効果には個人差があります。
中渚・三間・厲兌はどこにありますか?
中渚は手の甲で薬指と小指の間の骨のきわ、三間は人差し指の付け根の関節の親指側、厲兌は足の第2趾の爪のきわの中央です。取り方に迷うときは、鍼灸院で位置を確認してください。
お灸は1日に何回すえればよいですか?
動画では、同じツボの左右に同時に行い、1回のセットは3回までとしています。熱さを感じにくくても、3回を超えて続けないでください。毎日続ける場合も、1日1セットが目安です。
やけどが心配です。どうすればよいですか?
動画でも、3回、4回、5回と重ねると痕が残るやけどになることがあると注意しています。赤み、水ぶくれ、強い痛みが出たら中止し、皮膚の状態が気になるときは医療機関や鍼灸院に相談してください。糖尿病などで皮膚の感覚が鈍い方は、熱さに気づきにくいため、始める前に相談してください。
妊娠中や持病があるときも、お灸をしてよいですか?
妊娠中の方、持病で通院している方、服薬中の方は、始める前に主治医や鍼灸師に相談してください。動画では、病院の診察や漢方薬と併用することをすすめています。
どんなめまいのときは、お灸の前に受診すべきですか?
突然の激しいめまいに、ろれつが回らない、手足のまひやしびれ、物が二重に見える、激しい頭痛が伴うときは、すぐに救急受診してください。聞こえにくさや耳鳴りを伴うときは耳鼻科、立ちくらみで失神するときは内科の受診をおすすめします。
深谷伊三郎の症例は、更年期のめまいにも当てはまりますか?
当てはまるとは言えません。深谷の報告に出てくる症例は、52歳の男性のめまいと、28歳の女性の乗り物酔いで、更年期のめまいではありません。1人の施術者の臨床報告であり、経験的な示唆にとどまります。
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監修
木もれび鍼灸院/ツボ塾 代表
弓削 周平(ゆげ しゅうへい)
- 鍼灸師(はり師・きゅう師)
- 日本東洋医学会会員
- 2002年 明治東洋医学院専門学校卒業
- 2011年 長春中医薬大学卒業(中医学士)
- 2014年 木もれび鍼灸院開業
参考文献
- 深谷伊三郎『お灸で病気を治した話 灸堂臨床余録・第1集』鍼灸之世界社(刊行年は未確認).第19章「めまいと灸」
- Li L, Chen J, Han X, et al.Menopausal hormone therapy and incident benign paroxysmal positional vertigo in postmenopausal women: A prospective cohort study using UK Biobank data.Maturitas.2026;212:109076.DOI
- Owada S, Yamamoto M, Suzuki M, et al.Clinical Evaluation of Vertigo in Menopausal women.Nihon Jibiinkoka Gakkai Kaiho.2012;115(5):534-9.DOI
- Strupp M, Brandt T.Diagnosis and Treatment of Vertigo and Dizziness.Dtsch Arztebl Int.2008;105(10):173-80.DOI
- Yang Z, Li P, Jiang L, et al.Comparative effectiveness of acupuncture and Tuina for cervical vertigo: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials.Front Neurol.2026;17:1691312.DOI

