この記事の結論
ぎっくり腰(医学的には急性腰痛症と呼ばれることがあります)を繰り返さないために、研究でもっとも支持されているのは、腰痛が落ち着いたあとも運動を続けることです。動画では、そのひとつとして「膝を大転子より高く上げる足上げ」で腸腰筋を日常的に働かせる方法を紹介しました。ただし、足上げだけで再発を防げると確かめた研究は、今回確認した文献にはありません。
年に何度もぎっくり腰を繰り返す方、腰痛が落ち着いたあとの予防を考えている方に向けた記事です。運動やコルセットなど予防全般は【ぎっくり腰】予防のカギは運動の継続|腸腰筋の足上げセルフケアで解説しています。いままさに強い痛みがある方や、しびれ・脱力がある方は、セルフケアより受診を優先してください(本文「受診を優先すべきサイン」)。
この記事では、大阪の木もれび鍼灸院・院長 弓削周平(鍼灸師・臨床経験27年)が、ツボ塾の動画で紹介した腸腰筋の足上げについて、「動画で話したこと」と「研究で分かっていること」を並べて解説します。
ぎっくり腰を予防するには、何をすればいい?
動画で話したこと
年に何度もぎっくり腰や腰痛を繰り返す方は、腸腰筋(ちょうようきん)がうまく機能していない、というのが院長の考えです(動画で話した内容)。対策として、腸腰筋を働かせる足上げを毎日続けることを紹介しました。
研究で分かっていること
腰痛の再発予防については、運動を続けることを支持する研究があります。腰痛の治療後に行う運動プログラムを、何もしない場合と比べたコクラン・レビュー(複数の臨床試験をまとめた分析)では、再発が減る可能性が、中等度の質の根拠で示されています。
また、一人ひとりに合わせた歩行プログラムと教育を行った群を、無治療の群と比べた大規模なランダム化比較試験では、活動を制限するほどの腰痛が再発するまでの期間が長くなりました。
確度:経験的示唆(臨床試験で報告あり。効果には個人差があります)
動画では「足上げを毎日続けると再発予防・改善につながる」と話しましたが、研究で支持されているのは、運動全般や歩行プログラムを続けることです。足上げだけの再発予防効果を直接調べた研究は、今回確認した文献の中にありませんでした(確度:未検証)。
そのため、足上げは「これだけで防ぐ方法」ではなく、運動を続ける習慣の入り口のひとつと考えるのが安全です。
腸腰筋とは?ぎっくり腰とどう関係すると考えるのか?
腸腰筋は、大腰筋(だいようきん)と腸骨筋(ちょうこつきん)をあわせた呼び名です。腰骨から太もものつけ根、股関節につながり、太ももを引き上げる(股関節を曲げる)動きの中心になる筋肉です(確度:確立した解剖)。
動画で話したこと
腰痛になると「筋肉が弱った」と言われがちですが、動画では「筋肉自体はそれほど落ちておらず、機能していないことが問題」と話しました。頭で「足を出そう」と思っても、腸腰筋がしっかり反応していない、という見立てです。頭からの指令を腸腰筋が受け取る動きを毎日繰り返すことが、痛みの軽減につながる可能性がある、という考え方です。
研究で分かっていること
腸腰筋が、動かし方の練習で変化する筋肉であることを示す報告はあります。プロのフットボール選手を対象に、腰と骨盤まわりの運動制御トレーニングを行った試験では、腸腰筋の断面積(筋肉の大きさ)が増えました。ただし、これはスポーツ選手の研究で、ぎっくり腰の予防を調べたものではありません。
腰痛のある人に、股関節まわりのストレッチや筋力運動を6週間行った小規模な試験では、軽く皮膚に触れるだけの偽の施術より、痛みや生活の支障が改善しました。これも再発予防を調べたものではありません。
確度:「機能不全」という見立て自体は未検証(機序的仮説の段階)
後者の論文は、背景として「腰痛のある人では腸腰筋などが働きすぎ(過活動)になっている」という見方を述べています。動画の「眠っている(働いていない)」とは方向が違って見えますが、どちらも筋肉の働きを直接測って比べたものではないため、どちらが正しいとは言えません。「弱いのではなく機能していない」という動画の見立てを直接確かめた研究は、確認できませんでした。
腸腰筋のセルフケアと、受診が必要な腰痛の見分け方は【腰痛】病院で原因不明の腰痛|危険サインの見極めと腸腰筋セルフケアでも解説しています。
「大転子ルール」とは?膝をどこまで上げればいい?
動画で話した「大転子ルール」
太ももからお尻にかけて手でたどっていくと、お尻の横に骨のポッコリしたでっぱりが触れます。これが大転子(だいてんし)です。動画では、この大転子よりも膝が高い位置になると、腸腰筋が機能すると話しました。
逆に、膝が上がらない状態で毎日を過ごすと、腸腰筋が「眠った状態」になり、その状態が毎日続くと、ぎっくり腰や重い腰痛につながる、という悪循環の見立てです。
膝を高く上げるほど、股関節は深く曲がります。腸腰筋が股関節を曲げる筋肉であることは確立した解剖です。一方、「大転子より高い位置」という線引きや、「膝が上がらない生活で腸腰筋が眠る」という流れは、今回確認した研究では確かめられていません(確度:未検証。動画で紹介された考え方です)。
腸腰筋の足上げセルフケアのやり方は?
動画で紹介された足上げの手順
- 椅子・ベッド・ソファーなどに、上げる側の足の裏をのせて膝を立てます。膝が大転子より高い位置になるようにします。
- 立てた膝の上に肘をつき、体を前かがみにします。
- 左右とも行います。30秒ずつでも、1分ずつでもかまいません。
- 1日のうちに何度も繰り返します。秒数を数えながら繰り返す必要はありません。
動画では、1日の回数やセット数の決まりはなく、時間の許す限り、暇を見つけて続けるよう紹介しています。続けるうちに歩幅が広くなったり、階段の上り下りが楽に感じたりする方がいる、とも話していますが、効果には個人差があります。
研究で分かっていること(安全面)
腰痛に対する運動療法や身体活動を、多くのシステマティック・レビューをまとめて調べた報告では、痛みの軽減や再発予防に役立つ可能性があるとされています(根拠の確かさは低〜中等度)。運動による有害事象は、運動後の筋肉痛や一時的な痛みの増加が中心で、重大なものは報告されていません。
一方、歩行プログラムの試験では、下肢の不調に関する有害事象が、無治療の群より多く報告されました。 新しく運動を始めるときは、痛みが出ない範囲で少しずつ行うことが大切です。
確度:経験的示唆
※効果には個人差があります。強く無理をせず、心地よく感じる範囲で行ってください。痛みや違和感がある場合は中止してください。
セルフケアで改善しない場合は:受診を優先すべきサイン
次のようなサインがあるときは、セルフケアよりも先に、整形外科などの医療機関を受診してください。
- 足やお尻のしびれ、足に力が入らない(麻痺)
- 排尿・排便の異常(出にくい、漏れるなど)
- 発熱を伴う腰痛
- 安静にしていても続く激しい痛み
こうしたサインがなく、ぎっくり腰を繰り返す場合や、セルフケアで変化を感じにくい場合は、一人で抱えずにご相談ください。慢性的な腰痛については【腰痛】腰を揉んでも治らない慢性腰痛|2つの根本改善法も参考になります。
よくある質問
ぎっくり腰は予防できますか?
完全に防ぐ方法は示されていません。ただし、腰痛の再発予防では、運動を続けることが再発を減らす可能性があると報告されています。無理のない範囲で運動を習慣にすることが目安です。効果には個人差があります。
足上げは1日に何回、何秒やればいいですか?
動画では、回数やセット数の決まりはなく、左右とも30秒ずつ、または1分ずつを、時間の許す限り1日のうちに何度も行うと紹介しました。秒数を数えながら繰り返す必要はないとも話しています。痛みや違和感があれば中止してください。
大転子はどこにありますか?
太ももの外側からお尻にかけて手でたどると触れる、お尻の横の骨のでっぱりです。動画では、この大転子より膝が高い位置になると腸腰筋が働くと紹介しました。ただし、この線引きを直接調べた研究は確認できていません。
腸腰筋が弱っているから腰痛になるのですか?
動画では、筋肉自体はそれほど落ちておらず、働きがうまく引き出されていないことが問題という見立てを紹介しました。この見立てを直接確かめた研究は確認できておらず、確度は「未検証」の考え方です。
ぎっくり腰で痛みが強いときにやってもいいですか?
痛みが強いときは無理に行わないでください。痛みが落ち着き、足上げの姿勢で痛みが出ない範囲から行います。しびれや脱力など、受診を優先すべきサインについては、本文の「受診を優先すべきサイン」をご確認ください。
妊娠中や、腰・股関節の病気で通院中でも行えますか?
妊娠中の方、腰や股関節の病気で通院中の方、手術を受けた方は、行う前に主治医に相談してください。この記事のセルフケアは、個別の診断や治療に代わるものではありません。
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ぎっくり腰・腰痛のセルフケア
監修
木もれび鍼灸院/ツボ塾 代表
弓削 周平(ゆげ しゅうへい)
- 鍼灸師(はり師・きゅう師)
- 日本東洋医学会会員
- 2002年 明治東洋医学院専門学校卒業
- 2011年 長春中医薬大学卒業(中医学士)
- 2014年 木もれび鍼灸院開業
参考文献
- Choi BK, Verbeek JH, Tam WW, et al. Exercises for prevention of recurrences of low-back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2010;2010(1):CD006555. https://doi.org/10.1002/14651858.cd006555.pub2
- Pocovi NC, Lin CC, French SD, et al. Effectiveness and cost-effectiveness of an individualised, progressive walking and education intervention for the prevention of low back pain recurrence in Australia (WalkBack): a randomised controlled trial. Lancet. 2024;404(10448):134-144. PubMed
- Comachio J, Beckenkamp PR, Ho EK, et al. Benefits and harms of exercise therapy and physical activity for low back pain: An umbrella review. J Sport Health Sci. 2025;14:101038. https://doi.org/10.1016/j.jshs.2025.101038
- Mendis MD, Hides JA. Effect of motor control training on hip muscles in elite football players with and without low back pain. J Sci Med Sport. 2016;19(11):866-871. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2016.02.008
- Kim B, Yim J. Core Stability and Hip Exercises Improve Physical Function and Activity in Patients with Non-Specific Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial. Tohoku J Exp Med. 2020;251(3):193-206. https://doi.org/10.1620/tjem.251.193

