この記事の結論
呑気症とドキドキ(動悸・期外収縮)が関係すると、はっきり示した研究は今回の検索では見つかりませんでした。ただ、両方で困っている方は実際におられます。横隔膜を介してつながる可能性は、現時点では「未検証の仮説」です。まずは循環器での評価を受け、そのうえで無理のないセルフケアを検討してください。
ゲップや胸のつかえ(呑気症)と、ドキドキ・脈が飛ぶ感じが同時にあって、病院でどちらも相談しにくいと感じている方向けです。呑気症そのものを知りたい方は呑気症(空気嚥下症)の鍼灸治療について、ゲップが出せない方は逆行性輪状咽頭筋機能不全(R-CPD)をご覧ください。
この記事では、大阪の木もれび鍼灸院・院長 弓削周平(鍼灸師・臨床経験27年)が、動画で話した内容と、これまでの研究で分かっていることを並べて整理します。あなたのせいではありません。ちゃんと理由を考えていきましょう。
呑気症とドキドキは関係がありますか?
動画で話したこと
呑気症(空気を飲み込んでゲップが止まらない状態)は、横隔膜の緊張で下部食道括約筋(食道と胃の境目の筋肉)が硬くなり、空気がたまるためと考えています。心臓は横隔膜の上に載っているため、横隔膜が過度に緊張すると期外収縮(脈が一拍飛ぶように感じる不整脈)が起こる可能性がある、というのが動画での説明です。ただし、これは証明されていないとも伝えました。確度:未検証
研究で分かっていること
呑気症と期外収縮の関係を直接調べた研究は、今回の検索では確認できませんでした。近い領域として、逆流性食道炎(胃酸が食道に上がる病気)と心房細動(不整脈の一種)を調べた研究があります。発作性心房細動の患者さんを調べた小規模な研究では、逆流が確認された人の割合は多くなく、症状だけで逆流の有無を見分ける精度も高くありませんでした。これは呑気症を調べたものではないため、呑気症と動悸の関係を支持も否定もしていません。確度:未検証
つまり「関係がある」とも「関係がない」とも、研究からは言えない状態です。ただ、呑気症や逆流で悩む方の中に、動悸や息切れを訴える方が一定数おられることは、臨床でも見かけます。無視してよい訴えではないと考えています。
病院で相談しにくいのはなぜですか?
動画で話したこと
期外収縮は循環器科、呑気症は消化器内科と、診る科が分かれています。そのため、両方の症状を一緒に訴えても、どちらの科でも話がかみ合わないことが多いのでは、と説明しました。
期外収縮の多くは経過観察になるといわれますが、自己判断は禁物です。動悸の原因には、ストレス、アルコール、冠動脈(心臓の血管)の問題、甲状腺機能亢進症なども含まれます。これらは動画でも、先に除外したい原因として挙げました。まず循環器で評価を受け、原因がはっきりしないときにセルフケアを取り入れる、という順番が安心です。【横隔膜刺鍼】原因不明の動悸は横隔膜が鍵では、動悸と横隔膜の考え方を別の角度から書いています。
横隔膜の緊張で、期外収縮は起こるのですか?
動画で話したこと
横隔膜は心臓の下にあり、くっついています。過度な緊張が心臓に影響する可能性はあるものの、世界の論文を見てもほとんど出てこないため、実際のところは分からない、と話しました。
研究で分かっていること
横隔膜の緊張と期外収縮の関係を調べた研究は、今回の検索では確認できませんでした。研究が少ないということで、関係がないと分かったわけではありません。確度:未検証
この記事では、横隔膜の緊張が期外収縮を起こすとは言いません。「そう考えると説明がつく場面を臨床で経験している」という段階の話として読んでください。
斜角筋と横隔神経は、どんな関係ですか?
動画で話したこと
横隔膜は、首から出る横隔神経に支配されています。首にある斜角筋が横隔神経をクリップのように挟む形になっていて、浅い呼吸や緊張が続くと斜角筋が硬くなる。その結果、横隔膜も緊張しやすくなる、という説明です。確度:経験的示唆
動画では「斜角筋が横隔神経を挟む」と説明しましたが、解剖学的には正確ではありません。横隔神経は、前斜角筋(首の前側の筋肉)の前面を走って胸へ下りていきます。筋肉が神経をクリップのように挟み込んでいるわけではありません。斜角筋の緊張が横隔神経や横隔膜に影響するかどうかは、研究では確認できておらず、現時点では経験的な仮説にとどまります。
呼吸法は、呑気症のゲップに役立ちますか?
動画で話したこと
呼吸は、意識するほど浅くなりやすいものです。そこで、男性なら睾丸を持ち上げる、女性なら膣を締めるように、陰部に意識を向けてもらいます。呼吸を意識せずに、自然と深い呼吸にする工夫として紹介しました。確度:未検証
研究で分かっていること
腹式呼吸(横隔膜呼吸)の指導を受けた群と、待機中の対照群を比べた試験があります。腹式呼吸の群で、ゲップと、薬(プロトンポンプ阻害薬)が効きにくい逆流症状が減ったと報告されています。ただし、抄録にはランダム化の記載がなく、動悸や期外収縮への影響は調べられていません。陰部に意識を向ける方法そのものを調べた研究も、今回の検索では確認できませんでした。確度:腹式呼吸とゲップは経験的示唆、陰部への意識は未検証
呼吸法で楽になる可能性はありますが、「必ず効く」とは言えません。【呑気症】根本治療法|横隔膜の緊張を解く4つのセルフケアと専門治療やガス腹・呑気症が30秒で楽になるセルフケアも合わせてご覧ください。
自宅でできるセルフケアの手順は?
動画で紹介した方法です。研究で効果が確かめられたものではないため、確度は経験的示唆(斜角筋)・未検証(陰部への意識)です。循環器で評価を受けたうえで、気持ちよいと感じる範囲で行ってください。
斜角筋をゆるめる方法
- 胸の方から手を上に滑らせ、鎖骨を越えて止まるところに指を当てます。すぐ後ろには僧帽筋という大きな筋肉があり、その手前に斜角筋があります。
- 斜角筋は細い筋肉です。豆腐をつぶさない程度の軽い力で押さえます。
- 押さえたまま肩をすぼめ、45秒ほどキープして、すっと力を抜いて肩を落とします。
- 2〜3回くり返します。左右とも行います。
陰部に意識を向ける呼吸
呼吸そのものを意識せず、男性は睾丸を持ち上げる、女性は膣を締めるようなイメージを持ちます。自然に深い呼吸になるかを観察してください。うまくいかない場合は無理に続けなくて構いません。
横隔膜は直接マッサージしない
※効果には個人差があります。強く押しすぎず、心地よいと感じる強さで行ってください。痛みやしびれ、違和感がある場合は中止してください。
こんなときは病院へ。セルフケアで変わらない場合は?
期外収縮は、まず循環器で評価を受けてください。次のようなときは、セルフケアを続けずに早めに医療機関を受診してください。
- 失神しそうになる、実際に意識を失った
- 胸の痛みや圧迫感がある
- 息切れが悪化している
- 期外収縮の頻度が急に増えた
検査で大きな異常がなく、ストレスやアルコールなどの原因も整理したうえで症状が続くときは、横隔膜と呼吸の面から身体を診る方法もあります。当院の考え方は【横隔膜刺鍼】横隔膜へのアプローチという考え方にまとめています。一人で抱えなくて大丈夫です。
よくある質問
呑気症とドキドキ(動悸)は関係がありますか?
関係があると確立しているわけではありません。呑気症と動悸・期外収縮の両方に悩む方がいるのは事実で、横隔膜を介してつながる可能性を考えていますが、現時点では未検証です。動悸や脈の乱れがあるときは、まず循環器で評価を受けてください。
期外収縮があっても、呑気症のセルフケアをしてよいですか?
循環器で評価を受け、経過観察でよいと説明されたうえで、強い力を使わない範囲で行ってください。失神、胸痛、息切れの悪化、期外収縮の頻度の急な増加がある場合は、セルフケアより先に医療機関を受診してください。
横隔膜は自分でマッサージしてもよいですか?
横隔膜を直接マッサージすることはおすすめしません。横隔膜の周りには肝臓などの臓器が多く、横隔膜自体は外から触れられない筋肉です。強く刺激すると、かえって緊張が強まることがあります。
斜角筋のセルフケアで気をつけることはありますか?
豆腐をつぶさない程度の軽い力で行い、痛み・しびれ・違和感があれば中止してください。効果には個人差があります。妊娠中の方や持病のある方、体調に不安がある方は、事前に主治医に相談してください。
陰部に意識を向ける呼吸法に研究の裏づけはありますか?
今回の文献検索では、この呼吸法そのものを調べた研究は確認できませんでした。動画で紹介した臨床上の工夫であり、確度は未検証です。「必ず楽になる」といったものではありません。
どんなときに病院を受診すべきですか?
失神しそうになる、胸の痛みがある、息切れが悪化している、期外収縮の頻度が急に増えたなどのときは、早めに循環器を受診してください。初めて脈の乱れを自覚したときも、一度は循環器での評価をおすすめします。
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監修
木もれび鍼灸院/ツボ塾 代表
弓削 周平(ゆげ しゅうへい)
- 鍼灸師(はり師・きゅう師)
- 日本東洋医学会会員
- 2002年 明治東洋医学院専門学校卒業
- 2011年 長春中医薬大学卒業(中医学士)
- 2014年 木もれび鍼灸院開業
参考文献
- Coutinho EL, Herbella FAM, Lovato CAV, et al. Objective Evaluation of Gastroesophageal Reflux Disease in Patients with Paroxysmal Atrial Fibrillation. World J Surg. 2018;42(5):1458-1462. DOI
- Ong AM, Chua LT, Khor CJ, et al. Diaphragmatic Breathing Reduces Belching and Proton Pump Inhibitor Refractory Gastroesophageal Reflux Symptoms. Clin Gastroenterol Hepatol. 2018;16(3):407-416.e2. DOI
