この記事の結論
過敏性腸症候群ガス型で人生がつらくなるのは、あなたの努力不足ではなく、おならの症状が「言いにくい・理解されにくい・診断名がつきにくい」という特徴を持つためです。抜け出す第一歩は、理解してくれる人を一人ずつ増やして生活環境を整えることと、胃腸ではなく横隔膜(胸とお腹を分ける呼吸の筋肉)に目を向けたセルフケアです。
おならやお腹の張り、腹鳴(お腹が鳴ること)のために、受験や結婚・出産、恋人との関係、電車での移動などに支障を感じている方、これから不安になっている方向けの記事です。過敏性腸症候群(IBS)の症状ページもあわせてご覧ください。ゲップの症状が中心の方は、呑気症(どんきしょう)や逆行性輪状咽頭筋機能不全(R-CPD)のページ、ゲップとおならの違いはゲップが出る・出ない、おならが出る・溜まる|4つのタイプで分類する方法をご覧ください。
この記事では、大阪府池田市の木もれび鍼灸院・院長 弓削周平(鍼灸師・臨床経験27年)が、ガス型で人生の転機がうまくいかなくなる理由と、そこから抜け出すための環境づくり・セルフケアを解説します。
なぜ過敏性腸症候群ガス型で人生がうまくいかなくなるのか?
受験、出産や結婚、恋人との関係といった人生の転機で、この症状が壁になってしまう方がいます。診療ガイドラインでも、過敏性腸症候群では生活の質(QOL)が大きく低下することが示されています。当院では、つらさの背景に次の4つがあると考えています。
1. 症状が周囲から理解されにくい
日本では、おならや腹鳴がからかいの対象になりやすく、学校でいじめの標的になったり、職場や家庭で肩身が狭くなったりすることがあります。
おならは本来、体の状態を保つために出ていく生理現象です。ただ、当院には、1分間に1〜2回、多い方では1時間に100回以上出るという方もおられ、生活のさまざまな場面で支障になるのは当然だと考えています。
2. 診断名がつきにくい
診療ガイドラインでは、過敏性腸症候群は腹痛と便通の異常を軸に、便秘型・下痢型・混合型・分類不能型の4つに分けられます。ガス型は、この4つの病型に含まれていません。便通の異常がなく腹部膨満感が中心の場合は「機能性腹部膨満」という別の名前で扱われます。
そのため、病院で「ガス型」という言葉が使われないことも少なくない、と当院では感じています。名前がつきにくくても、便秘型・下痢型と同じくらい、もしくはそれ以上の方が悩んでいる症状だというのが当院の実感です。
3. 「自分だけ」と思い込んでしまう
おならを我慢する毎日の中で、周りにはこの症状で悩んでいる人はいないと思い込みやすくなります。けれど、周囲に相談しないだけで、実際には大なり小なり悩んでいる人は多いと当院では感じています。
診療ガイドラインでは、過敏性腸症候群全体で女性の有病率が男性より高いこと(男性8.9、女性14.0の平均値で1.6倍。アジアでは男女差がないとするレビューもあります)、年齢とともに有病率が低下する傾向があることが示されています。当院では、ガス型は特に若い女性や痩せ型の方に多い印象です。ただし、ガス型に絞った統計ではありません。
4. 恋人や家族と共有しにくい
ガイドラインで引用されているメタアナリシスでは、男性に下痢型が多いことが報告されています。ガス症状で悩む女性と、下痢で悩む男性は、お互いのお腹の不調として症状を打ち明け合えるかもしれません。
理解者を増やし、生活環境を整えるにはどうすればいいのか?
当院では、この症状を「診断できない理由」「理解されない理由」「共有できない理由」に分けて考え、理解して共有してくれる人を一人ずつ増やしていくことをすすめています。心が楽になり、ガスを出しやすい環境づくりもできるようになるからです。
- 相談する相手を選ぶ:信頼できる友人や恋人、理解のある学校の先生など、身近な人から一人ずつ話してみてください。
- 受験勉強の環境を整える:10代で発症し、そのまま長く引きずる方が多いと当院では感じています。塾や学校で特別な個室を用意してもらう方もおられます。理解のある先生に相談して環境を整えることも大切です。
- 電車や人混みが不安なとき:無理をせず、家族に車で送迎してもらう、公共交通機関を使わずに動ける範囲で生活を組み立てるなど、自分の条件に合わせた工夫をしてください。
- 恋人に伝えにくいとき:男性は下痢型が多いと報告されているため、お互いの不調を擦り合わせる形で伝えると、共有しやすくなります。
なぜお腹のガスが増えるのか?当院の考え方
当院では、ガス型は胃腸そのものの病気ではない可能性があると考えています。ここでは、SIBO(小腸内細菌増殖症:小腸の中で細菌が増える状態)を除いた場合の話です。当院の経験では、SIBOは多くなく、口から空気を飲み込んでお腹が張り、それがおならとして出る方が圧倒的に多いと認識しています。
その背景として当院が注目しているのが横隔膜です。横隔膜は胸とお腹を分けるドーム状の呼吸の筋肉です。これが緊張して働きにくくなると、無意識に飲み込んだ空気がガスとなり、大量に出てしまうのではないか、と当院では考えています。
もう一つは、不安との関係です。不安が強くなると腸が過活動になり、腹鳴が増えて、周囲の人に音が聞こえてしまう状態が起こります。
これらは当院の臨床上の考え方であり、確立した診断基準ではありません。横隔膜と呑気症の関係は呑気症の根本治療法|横隔膜の緊張を解く4つのセルフケアと専門治療、ガス腹の原因はガス腹の2つの原因|「肩」で改善するセルフケアでも解説しています。
※ゲップがまったく出せない場合は逆行性輪状咽頭筋機能不全(R-CPD)、食後すぐの強い胃もたれや早期満腹感がある場合は機能性ディスペプシアの可能性があります。それぞれのページをご覧ください。
セルフケアのポイント
当院では、お腹(胃腸)ではなく、横隔膜の動きを整えるセルフケアを提案しています。3つあります。
3つのセルフケアの手順
- 片方ずつ伸びをする:両手を上げ、片方ずつ交互に上へ伸びをするように動かします。10回ずつ行い、慣れてきたら30回を2セット行います。
- 肋骨のキワを息を吐きながら押さえる:みぞおちから肋骨の外側まで、肋骨のキワを手でやさしく押さえます。ゆっくり息を吐きながら1回ずつ、中に向かってじんわり入れるように行います。
- 四つん這いで膝を振る:四つん這いになり、膝を軽く持ち上げて左右に振ります。10回行います。
行うときの注意点
みぞおち周辺の押さえ方が合わない方もいます。その理由は機能性ディスペプシア・呑気症の横隔膜マッサージが逆効果な理由をご覧ください。
食事の考え方
当院では、ガス型は若い女性や痩せ型の方に多い印象があるため、食べられるなら脂質とたんぱく質を毎日とり、体重を増やすイメージを持つことをすすめています。食物繊維は無理に増やさなくてもよいと考えています。体重が増えるにつれて症状が軽くなる方を当院では多く診ていますが、個人差があります。痩せと自律神経の関係は痩せすぎと自律神経の不調でも解説しています。
※診療ガイドラインは、過敏性腸症候群全般について、脂質を多く含む食品を控えることを提案し(推奨の強さ:弱)、食物繊維は有用であるとして推奨しています(推奨の強さ:強)。ガイドラインはガス型に限った内容ではなく、当院の考えとは異なる部分があります。体調や持病に応じて、主治医や管理栄養士に相談しながら調整してください。
※効果には個人差があります。強く押しすぎず、心地よいと感じる強さで行ってください。痛みや違和感がある場合は中止してください。
セルフケアで改善しない場合は
発熱、関節痛、血便、半年以内の予期せぬ3kg以上の体重減少、お腹のしこり、50歳以上での発症、大腸の病気の既往や家族歴がある場合は、セルフケアより先に消化器内科を受診してください。診療ガイドラインでも、これらは器質的な病気を調べる目安とされています。
気分の落ち込みや不安が強く、日常生活を保つのがつらいときは、心療内科・精神科への相談も選択肢です。診療ガイドラインでは、過敏性腸症候群に対して認知行動療法などの心理療法が推奨されています。
当院では、検査で異常が見つからない腹部の症状に対して、横隔膜へアプローチする横隔膜刺鍼を行っています。詳しくは検査で異常なしの腹部症状に|横隔膜刺鍼という選択肢、施術後3つの変化とは?横隔膜刺鍼をご覧ください。
よくある質問
おならが1時間に何十回も出るのは異常ですか?
おならは体の状態を保つために出ていく生理現象で、出ること自体は異常ではありません。ただ、回数がとても多く、学校や仕事などの生活に支障が出ているなら、一人で抱え込まずに相談してください。当院では、1分間に1〜2回、多い方では1時間に100回以上出るという方もおられます。まずは消化器内科で、警告症状などがないかを確認しておくと安心です。
病院で「ガス型」と診断されないのはなぜですか?
診療ガイドラインでは、過敏性腸症候群は便秘型・下痢型・混合型・分類不能型の4つに分けられており、ガス型という病型はありません。便通の異常がなく腹部膨満感が中心の場合は、機能性腹部膨満という別の名前で扱われます。「ガス型」は、悩みの中心がガスにある状態を指して使われることが多い表現です。
男性でも過敏性腸症候群ガス型になりますか?
男性にも起こりえますが、当院では女性に多い印象があります。診療ガイドラインでは、過敏性腸症候群全体で女性のほうが有病率が高いこと、男性は下痢型が多いことが報告されています。ガス型に絞った男女比のデータは、ガイドラインには記載されていません。
学校や塾、職場にはどう伝えればいいですか?
当院では、まず理解のある先生や信頼できる人に相談することをすすめています。受験勉強では、塾や学校で個室を用意してもらう方もおられます。電車や人混みが不安な場合は、家族に車で送迎してもらうなど、公共交通機関を使わずに動ける範囲で生活を組み立てる方法もあります。
食事で体重を増やしたほうがいいですか?
当院では、ガス型の方は若い女性や痩せ型の方に多い印象があり、食べられる範囲でたんぱく質と脂質をとって、体重を増やすイメージを持つことをすすめています。ただし、診療ガイドラインは脂質を多く含む食品を控えることを提案しており、考え方が異なります。体調や持病に応じて、主治医や管理栄養士に相談しながら調整してください。効果には個人差があります。なお、半年以内に予期せぬ3kg以上の体重減少がある場合は、先に医療機関を受診してください。
妊娠中にセルフケアをしてもいいですか?
妊娠中の方は、お腹まわりを押さえるセルフケアや四つん這いの運動を行う前に、事前に主治医に相談し、許可を得てから行ってください。痛みや違和感がある場合は中止してください。
どんな症状があれば病院に行くべきですか?
発熱、関節痛、血便、半年以内の予期せぬ3kg以上の体重減少、お腹のしこり、50歳以上で初めて症状が出た場合、大腸の病気の既往や家族歴がある場合は、セルフケアより先に消化器内科を受診してください。診療ガイドラインでも、これらは器質的な病気を調べる目安とされています。
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監修
木もれび鍼灸院/ツボ塾 代表
弓削 周平(ゆげ しゅうへい)
- 鍼灸師(はり師・きゅう師)
- 日本東洋医学会会員
- 2002年 明治東洋医学院卒業
- 2011年 長春中医薬大学卒業
- 2014年 木もれび鍼灸院開業
参考文献
- 日本消化器病学会 編『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)』一般財団法人日本消化器病学会, 2020年

