この記事の結論
食後のみぞおちの空気は、お腹を手で押して出すのではなく、横になる向きを「左を下 → うつ伏せ → 右を下」と順に変えて、空気が胃の入り口に集まりやすい姿勢をつくって抜く方法があります。当院の臨床でお伝えしているセルフケアです。この方法そのものの効果を確かめた研究はまだありませんが、胃に空気がたまる仕組みとげっぷの仕組みから、なぜこの順番なのかを説明できます。
食事中から食後にかけてみぞおちがパンパンに張り、空気が抜けずに食べられなくなる方、機能性ディスペプシアや逆流性食道炎で食後の張りに悩んでいる方に向けた記事です。反対に、げっぷが止まらない・何度も出てしまう方は呑気症(空気嚥下症)の鍼灸治療についてを、生まれつきげっぷがまったく出ない方は【ゲップが出ない病気】R-CPDの症状・診断・治療と顎のケアをご覧ください。
食後のみぞおちの空気を抜く方法は?
食後の寝方セルフケア(3ステップ)
1. 左を下にして横になる:5〜10分(長くて15分)
2. うつ伏せになる:5〜15分
3. 右を下にして横になる:5〜10分
ポイント:お腹を手で押さないこと。つらい場合は各1〜2分から始めてかまいません。
一般的には、食後は右を下にして(左を上にして)横になると楽になると言われます。当院では、食後にみぞおちが張りやすい方には、まず左を下にする順番をお伝えしています。臨床では、このケアを続けるなかで、食後のお腹の張りが軽くなった、空気のげっぷが出せるようになったという声を多く聞いています。ただし、効果には個人差があります。
この記事では、大阪の木もれび鍼灸院・院長 弓削周平(鍼灸師・臨床経験27年)が、食後に胃へ空気がたまる理由、2種類のげっぷの違い、空気が抜けにくい状況とみぞおちの張りの関係、東洋医学の見方、そして寝る向き・食べ方・呼吸のセルフケアを、研究でわかっていること・まだわかっていないことに分けて解説します。
記事中のラベルは主張の確かさを表します。確立した生理学複数の研究で確かめられている体の仕組み/機序的仮説研究報告から考えられる説明/経験的示唆小規模な研究や臨床経験にもとづくもの/未検証研究で確かめられていないもの。
なぜ食後に胃へ空気がたまるのか?
食べるたび・飲むたびに、空気も一緒に飲み込んでいる
確立した生理学人は食べ物や唾液を飲み込むとき、少しずつ空気も一緒に飲み込んでいます。飲み込んだ空気が胃にたまると胃の容積が増え、胃の壁にあるセンサー(伸展受容器)が「胃がふくらんだ」と感知します[PMID:17481963]。
確立した生理学飲み込みの回数そのものは普通なのに、空気を飲み込む回数が多い人がいることもわかっています。呑気症(どんきしょう)の患者さんを24時間測定した研究では、飲み込みの回数は741±71回と普通でしたが、空気の飲み込みは521±63回、胃からのげっぷは126±37回と多く見られました[PMID:19602452]。
未検証早食い・食事中の会話・ガムなどで飲み込む空気が増えるとよく言われますが、今回調べた研究の範囲では、それを測定した報告は見つかりませんでした。
胃は食べ物を受け入れるために上の部分をゆるめる(適応性弛緩)
確立した生理学食事をすると、胃は内容物をためる「袋」の役割をはたすために、上の部分(胃底部:いていぶ)をゆるめて広がります。これを胃の適応性弛緩(てきおうせいしかん)と呼びます[PMID:17643905]。このゆるみは迷走神経(脳と内臓をつなぐ自律神経)を通して起こり、十二指腸に届いた栄養の情報も調節に関わっています[PMID:34337824]。一酸化窒素を使う神経やセロトニンの受容体も関わることが総説で解説されています[PMID:16854999]。
つまり、食後の胃の上の部分は「広がって、食べ物と一緒に入ってきた空気もいったん受け止める場所」になっています。
胃のげっぷと胃上部げっぷは何が違う?
げっぷ(医学用語では噯気:あいき)には、仕組みのまったく違う2種類があることがわかっています。
胃のげっぷ(gastric belching)
空気の出どころ:胃にたまった空気
仕組み:胃がふくらむと、迷走神経を介した反射で食道と胃の境目の筋肉(下部食道括約筋)が一時的にゆるみ、胃の空気が食道を通って口から出ます[PMID:25001253][PMID:17481963]。このゆるみは一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR:ティーレスアール)と呼ばれます。
位置づけ:胃の空気を逃がすための、体にもともと備わった生理的な仕組みです[PMID:17481963]。
胃上部げっぷ(supragastric belching)
空気の出どころ:胃まで届いていない、食道に吸い込んだ空気
仕組み:空気を食道に吸い込み、ほとんどすぐに口から吐き出します。げっぷの多い患者さんで測定した1,258回のげっぷのうち、胃から出たものは51回で、1,207回(96%)は食道に入った空気がすぐに出ていくタイプでした[PMID:17037987]。
位置づけ:げっぷが多すぎて困る方は、胃のげっぷではなく胃上部げっぷが増えていることが総説で示されています。行動的な(癖のような)ものと考えられています[PMID:25001253]。
確立した生理学この記事で扱う「食後のみぞおちの空気を抜きたい」という悩みは、胃にたまった空気の話なので、主に胃のげっぷの側の問題です。反対に「げっぷが何度も出て止まらない」悩みは、胃上部げっぷが中心で、対処の考え方が違います。
空気が抜けにくいと、なぜみぞおちが張るのか?
確立した生理学胃に空気や食べ物がたまって胃の壁が引き伸ばされると、その刺激がみぞおちの張りや圧迫感として感じられます。飲み込んだ空気がげっぷとして出ずに腸へ進むと、お腹全体の張りになります。空気を飲み込みすぎる呑気症の患者さんで多い症状は、げっぷよりも、お腹の張り(膨満感)・お腹のふくらみ・便秘でした[PMID:19602452][PMID:20095992]。
機序的仮説食後の胃の上の部分がうまく広がらないと、少し食べただけでみぞおちが張りやすくなると考えられています。総説では、機能性ディスペプシアの約40%で適応性弛緩の障害が見つかったとされています[PMID:16854999]。一方で、機能性ディスペプシアの症状の強さは、胃の動きや感じ方よりも心理社会的な要因との関係が大きいという研究もあり[PMID:18625692]、適応性弛緩だけで張りを説明することはできません。
胃の形(瀑状胃)も空気の抜けやすさに関わる
瀑状胃(ばくじょうい)とは、胃の上の部分が背中側に折れ曲がった形の胃のことで、英語ではカスケード胃(cascade stomach)と呼ばれます。食べたものはいったん折れ曲がった上の部分にたまり、あふれると滝のように下へ流れ落ちます。胃のX線検査(バリウム検査)や胃カメラで指摘されることがあります。
機序的仮説日本の集団を対象にした研究では、瀑状胃がある人は上腹部の症状を訴える割合が高く、ほかの要因を調整したオッズ比(起こりやすさの目安)は男性1.771、女性2.544でした[PMID:22288935]。瀑状胃の人11名と対照の11名を比べた小規模な研究では、瀑状胃の人は食後に下部食道括約筋が一時的にゆるむ回数が多いと報告されています[PMID:28584403]。健診を受けた人の研究では、瀑状胃は逆流性食道炎の独立した危険因子でした[PMID:27121685]。
ただし、これらは「関連がある」という結果で、瀑状胃が機能性ディスペプシアの原因だとまでは言えません。機能性ディスペプシアの方がみな瀑状胃というわけでもありません。経験的示唆当院では、瀑状胃の方は胃が折りたたまれたような形のため、食後すぐにみぞおちが張りやすく、空気も抜けにくいと考えています。
※げっぷが生まれつきまったく出ない場合は、R-CPD(輪状咽頭筋の弛緩障害)という別の病気の可能性があります。詳しくは【ゲップが出ない病気】R-CPDの症状・診断・治療と顎のケアをご覧ください。
東洋医学では食後のみぞおちの張りをどう考えるのか?
未検証東洋医学では、食後のみぞおちの張りを五臓の「脾(ひ)」の働きと関係づけて考えます。ここでいう脾は、西洋医学の脾臓とは別の概念で、食べたものを消化して栄養や水分を全身に運ぶ働き(運化:うんか)を担うとされます。
東洋医学では、脾の気は上へ、胃の気は下へ向かうことで、食べたものがスムーズに流れると考えます。脾の運化が弱ると、食べたものや水分が胃にとどまりやすくなり、みぞおちの張りや重さとして現れる、と説明します。ちゃんと理由がある不調であって、あなたの気持ちの問題ではありません。
この考え方は、現代医学の検査で確かめられたものではありません。当院では、先ほどの胃の仕組みと重ね合わせながら、体の状態を読み解く手がかりとして用いています。
寝る向きを変えると、なぜ空気が抜けやすくなるのか?
3つの向きには、それぞれ次のような意味があると考えています。研究で確かめられている部分と、当院の臨床経験にもとづく部分を分けて書きます。
1. 左を下にする:食後の不快感をやわらげる
経験的示唆健康な成人を対象に、食後の向きを比べた研究があります。左を下にしたときは、右を下にしたときより、食後10分と20分のみぞおちの痛み・吐き気・満腹感が少なかったと報告されています[PMID:25515140]。また、夜の睡眠中は、左を下にすると胃酸の逆流が少ないことが、メタ分析やランダム化比較試験で報告されています[PMID:37969463][PMID:35301135]。ただし、これらは健康な人や睡眠中の研究で、食後の張りに悩む方で確かめたものではありません。
2. うつ伏せになる:折れ曲がった形をゆるめる
未検証瀑状胃は、胃の上の部分が背中側に引かれて折れ曲がった形です。当院では、うつ伏せになることでその折れ曲がりがゆるみ、たまった食べものや空気が動きやすくなると考えています。成人でうつ伏せの効果を確かめた研究は、現時点では見つかっていません。
3. 右を下にする:空気を胃の入り口へ集める
機序的仮説胃の入り口(噴門:ふんもん)と胃の上の部分は、体の左側にあります。右を下にすると体の左側が上になるため、軽い空気は胃の入り口のあたりに集まりやすくなると考えられます。胃のげっぷは、胃の上の部分がふくらむことで反射が起きて空気が出る仕組みなので[PMID:25001253]、空気がそこに集まることはげっぷの出やすさにつながると考えられます。また、右を下にしたときのほうが胃から腸へ送り出すのが速かったという報告もあります[PMID:25515140]。経験的示唆臨床では、最後に右を下にすることで、お腹に入った空気が口から出やすくなるケースを経験しています。
なお、この寝方のセルフケアが効くかどうかを直接調べた研究は、まだ見つかっていません。げっぷが「出る・出ない」のタイプについては【過敏性腸症候群ガス型】ゲップが出る・出ない、おならが出る・溜まる|4つのタイプで分類する方法で、短時間でできる別のセルフケアはガス腹・呑気症が30秒で楽になるセルフケアで解説しています。
お腹を押して空気を出すのはよくない?
食後にお腹に空気がたまる方のなかには、お腹を手で押してげっぷを出す方が少なくありません。一時的には楽になりますが、癖になると毎回押すようになります。
未検証当院では、お腹を押して空気を出す習慣が続くと、瀑状胃の形がさらに強まり、空気を飲み込んでは出せない状態になりやすいと考えています。研究で確かめられたことではありませんが、臨床では押す習慣を減らしてもらうことを大切にしています。まったくやめる必要はありませんが、押す回数を減らし、寝る向きで空気を逃がす方法に切り替えてみてください。ご家族が食後にお腹を押していないか、様子を見てあげるのもよいでしょう。
ほかにも逆効果になりやすいケアがあります。【機能性ディスペプシア】3つの間違ったケアと【機能性ディスペプシア・呑気症】横隔膜マッサージが逆効果な理由もあわせてご覧ください。
セルフケアのポイント
寝る向きの手順
- 食事が終わったら、左を下にして横になります。5〜10分、長くて15分が目安です。
- 次にうつ伏せになり、5〜15分ほどその姿勢を保ちます。
- 最後に右を下にして横になり、5〜10分ほど保ちます。
- 最初は3分でもつらいと感じる方が多いです。各1〜2分から始めて、毎日続けてみてください。
食べ方
経験的示唆飲み込む空気を減らすことは、たまる空気を減らすことにつながると考えられます。小児の呑気症の観察研究では、保護者と子どもへの説明に加えて、ストローを使わない・炭酸飲料を飲まないという助言が行われていました[PMID:18445758]。ただし対照群のない小規模な研究で、それぞれの助言の効果は分けて確かめられていません。未検証ひと口を少なくしてゆっくり食べる、食事中に話しながら飲み込まないといった工夫も、空気を飲み込む機会を減らすという理由から考えられる方法ですが、研究での裏づけは見つかっていません。
呼吸
経験的示唆げっぷが止まらないタイプ(胃上部げっぷ)では、横隔膜呼吸を使った認知行動療法が第一選択とする総説があり[PMID:37844547]、行動療法でげっぷの訴えが減ることも報告されています[PMID:25001253]。これは専門家の指導のもとで行う治療で、「食後に胃の空気を抜く」ための方法として確かめられたものではありません。当院では、空気を飲み込みすぎる癖がある方に、骨盤の底を意識したゆっくりした呼吸をお伝えしています。
注意点
行うタイミング
寝る向きのセルフケアは、食事が終わってすぐに行います。毎日の食後の習慣にしてください。
※効果には個人差があります。無理のない時間で行い、痛みや気分の悪さ、違和感がある場合は中止してください。
セルフケアで改善しない場合は
食後の張りが続くと、食事の量が減り、食べることそのものが不安になる方もいます。体重が減ってきた、吐血や黒い便がある、飲み込みにくい、嘔吐を繰り返す、激しい腹痛があるといった場合は、別の病気が隠れている可能性があります。消化器内科での受診をおすすめします。
検査で大きな異常がなく、セルフケアでも食後の張りが続く方には、当院では横隔膜や肋骨まわりの緊張に着目した鍼灸治療を行っています。考え方は【機能性ディスペプシア】肋骨弓の角度が重要|横隔膜を緩める鍼灸治療で改善で解説しています。一人で抱えなくて大丈夫です。
機能性ディスペプシアの鍼灸治療について
当院の考え方と施術の流れを、症状ページで詳しく紹介しています。
機能性ディスペプシアのページを見るご予約・ご相談は木もれび鍼灸院のLINEから。自分でできるケアをもう少し知りたい方はツボ塾のLINEもどうぞ。
よくある質問
食後どのくらいで横になればいいですか?
食事が終わってすぐに、左を下にして横になります。左を下に5〜10分、うつ伏せ5〜15分、右を下に5〜10分が目安です。つらい場合は各1〜2分から始めてかまいません。
げっぷが止まらない場合もこの方法でいいですか?
げっぷが何度も出て止まらない場合は、胃にたまった空気ではなく、食道に吸い込んだ空気をすぐに吐き出す胃上部げっぷが中心のことが多く、対処の考え方が違います。この記事の寝方は、胃にたまった空気が抜けにくい方に向けたものです。げっぷが止まらない方は、消化器内科への相談や呑気症のページをご覧ください。
お腹を押してげっぷを出すのはやめたほうがいいですか?
当院では、お腹を押して空気を出す習慣が続くと、空気を飲み込んでは出せない状態になりやすいと考えています。研究で確かめられたことではありませんが、まったくやめる必要はなく、押す回数を減らして寝る向きで空気を逃がす方法に切り替えることをおすすめしています。
げっぷがまったく出ないのですが、どうすればいいですか?
生まれつきげっぷがまったく出ない場合は、R-CPD(輪状咽頭筋の弛緩障害)という別の病気の可能性があります。セルフケアだけで様子を見ず、医療機関での相談をおすすめします。
炭酸飲料やストローは避けたほうがいいですか?
小児の呑気症の観察研究では、ストローを使わない・炭酸飲料を飲まないという助言が行われていました。ただし小規模な研究で、それぞれの助言の効果は分けて確かめられていません。空気を飲み込む量を減らすという理由から、食後の張りがつらい時期は控えてみるのも一つの方法です。
妊娠中でもこのセルフケアをしていいですか?
妊娠中は、うつ伏せの姿勢がお腹を圧迫するため行わないでください。横向きの姿勢も、体調や妊娠の時期によって負担になることがあります。妊娠中の食後の張りは、まずかかりつけの産婦人科にご相談ください。
どのくらい続ければいいですか?
毎日の食後の習慣として続けてください。変化の感じ方には個人差があります。続けても張りが変わらない場合や、体重減少・吐血・黒い便・飲み込みにくさなどがある場合は、消化器内科を受診してください。
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監修
木もれび鍼灸院/ツボ塾 代表
弓削 周平(ゆげ しゅうへい)
- 鍼灸師(はり師・きゅう師)
- 日本東洋医学会会員
- 2002年 明治東洋医学院専門学校卒業
- 2011年 長春中医薬大学卒業(中医学士)
- 2014年 木もれび鍼灸院開業
参考文献
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