【鍼灸】VIVANT黒須の鍼治療とは?電気鍼と戦場鍼を研究で解説

【鍼灸】VIVANT黒須の鍼治療とは?電気鍼と戦場鍼を研究で解説 コラム

この記事の結論

VIVANTで描かれた「1回の鍼治療で約70%回復」は、ドラマの演出として見るのが安全です。ただし、作中の描写に近い実在の手技として「電気鍼」と「戦場鍼(せんじょうしん)」があり、どちらも痛みを中心に研究が進んでいます。鍼がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に役立つ可能性を示す研究もありますが、研究の質が十分とは言えず、まだ確定していません。

この記事の対象者
VIVANTを見て「あの鍼治療は本当にありうるのか」と気になった方、電気鍼・戦場鍼・鍼とPTSDの関係を知りたい方に向けた記事です。ネタバレにご注意ください。作中の場面は、拷問を受けた黒須が鍼治療を受けて回復した、という流れの要約にとどめ、台詞や画像は使っていません。自律神経の乱れや不安感が気になる方は、自律神経失調症の鍼灸治療についてもご覧ください。

この記事では、大阪の木もれび鍼灸院・院長 弓削周平(鍼灸師・臨床経験27年)が、ツボ塾の動画で話した内容と、実際の研究で分かっていることを並べて解説します。各項目の「確度」は、確立した生理学/機序的仮説/経験的示唆/未検証の4段階で示します。

1回の鍼で7割回復することはありえる?

動画で話したこと

動画では、ドラマの描写を見て「実際に可能なのかというと、可能かもしれない」とお話ししました。深く刺す鍼と強い電気刺激で痛みを大きく抑え、心の負担には耳の鍼(戦場鍼)を使っている可能性がある、という推測です。ただし、回復には本人の自己回復力が必要で、虚弱な方や運動習慣のない方には強い刺激は負担になるため、あくまで特殊例として見てほしいと伝えました。

研究で分かっていること

婦人科手術の際に電気鍼を併用したランダム化比較試験(対照群あり)では、術後の痛みと鎮痛薬の使用量が対照群より少ないと報告されています。ただし、測定は術後24時間までで、長期の回復を見た研究ではありません。

ヤギを使った動物実験では、30分の電気鍼のあとに鎮痛効果が少なくとも12時間続いたという報告があります。ただし動物の研究で、そのまま人に当てはめることはできません。

確度:経験的示唆(痛みの一時的な軽減について)。「1回の鍼で全体の7割が回復する」ことを示した研究は、今回の文献検索では確認できませんでした(未検証)。

鍼で痛みが一時的に軽くなる可能性は、研究でも示されています。一方で、ケガや炎症そのものが1回で元に戻るという意味ではありません。ドラマの「70%」は、物語として分かりやすくするための数字と受け取るのがよいでしょう。効果には個人差があります。

動画との違い
動画では「可能かもしれない」と話しましたが、研究で確認できたのは「痛みの一時的な軽減」までで、「1回で大きく回復する」ことを示した研究は見つかりませんでした。動画で触れた脱臼や、爪を剥がされるような損傷、体内の炎症は、鍼だけで元に戻せるものではありません。

電気鍼と脳内モルヒネ(内因性オピオイド)の関係は?

動画で話したこと

電気鍼は、鍼に電気を流して筋肉を刺激する方法です。動画では、これにより「脳内モルヒネ」とも呼ばれる内因性オピオイド(体の中で自然につくられる鎮痛物質)が出て、痛みを抑える働きが高まる、と説明しました。また、普段から痛み止めを多用していると、脳から出るこの鎮痛作用が落ちてしまう、とも話しました。

研究で分かっていること

ラットの炎症性の痛みのモデルでは、脳幹にあるオピオイド受容体の働きを薬で止めると、電気鍼の痛みを抑える作用が弱まりました。電気鍼の鎮痛に、体内のオピオイドが関わることを示す結果です。

一方、電気を流す周波数(1秒間の刺激回数)の違いでオピオイドの関わり方が変わるかを調べたラットの実験では、低い周波数ではオピオイドを止める薬で鎮痛が消え、高い周波数ではほとんど影響がありませんでした。ただし先ほどの実験では高い周波数でもオピオイドの関与が示されており、研究によって結果は一致していません。

確度:機序的仮説(動物実験が中心)。今回引用した研究は動物実験が中心で、人で内因性オピオイドの量を測った研究は含まれていません。

鍼+電気刺激 → 神経の信号が脳・脊髄へ → 内因性オピオイドが関与(動物実験) → 痛みの感じ方が下がる可能性

つまり「電気鍼で脳内モルヒネが関わる」という説明は、今回引用した研究は動物実験が中心で、人での確認までは含まれていません。「脳内モルヒネがたくさん出るから痛みが取れる」と言い切れる段階ではなく、仮説として理解するのが正確です。

動画との違い
①「人と動物の両方にエビデンスがある」について:今回引用した研究は、動物実験での機序の根拠と、人での痛みの軽減を見た臨床試験が中心です。人で内因性オピオイドの変化を測った研究は、今回の引用には含まれていません。
②「痛み止め(ロキソニンなど)の多用で脳の鎮痛作用が落ちる」について:この主張を裏付ける論文は、今回の文献検索では確認できませんでした。現時点では未検証です。痛み止めは、医師や薬剤師の指示のもとで必要な分を使うものですので、自己判断で控えたり増やしたりしないでください。
③「強い電気刺激でたくさん出る」について:周波数や条件によって結果が異なっており、「強いほど良い」と言える根拠は確認できませんでした。

戦場鍼(せんじょうしん)とは?

動画で話したこと

動画では、戦場鍼をアメリカ軍でも採用している耳鍼だと紹介しました。耳に特殊な鍼を埋め込む形で刺激を行い、「耳は副交感神経が優位な部位なので、脳の興奮状態を抑えられる」と説明しました。心のダメージに対して使われている可能性がある、という推測です。

研究で分かっていること

戦場鍼は、耳の特定の5か所に、使い捨ての小さな金色の針を数日間留置する耳鍼の方法です。成人の痛みを対象にしたランダム化比較試験のメタ分析(複数の試験をまとめた研究)が報告されています。

アメリカ退役軍人病院で行われた、偽鍼(本物の鍼ではない刺激)を対照にしたランダム化比較試験では、全身麻酔の手術後24時間のオピオイド(医療用麻薬)の使用量が、戦場鍼を受けた群で少なかったと報告されています。

確度:経験的示唆(痛み・術後の鎮痛薬の使用量について)。ただし、効果が見られなかった試験も報告されており、結果は研究によって異なります。

戦場鍼は、もともと兵士の痛みに対応するために考案された方法で、研究の中心も痛みです。耳を刺激すると副交感神経(体を休ませる側の神経)の働きが高まって落ち着く、という説明はよく聞かれますが、今回確認した論文の範囲では、この機序を直接確かめた記述は見つかりませんでした。機序的仮説として受け止めてください。

動画との違い
研究で確認できた戦場鍼の対象は、主に痛みです。動画で紹介した「心のダメージに使う」使い方は、PTSDなどを対象にした対照試験を今回の検索では確認できず、未検証です。また「耳は副交感神経優位だから脳の興奮が落ち着く」という説明は、機序的仮説であり、研究で確かめられた機序ではありません。

拷問のトラウマ(PTSD)に鍼は役立つ?

動画で話したこと

動画では、黒須さんは体だけでなく心にもトラウマを負っており、そのトラウマも鍼刺激で抑えていける、と話しました。体の痛みを止めることと、心に負ったダメージを抑えること、この2つを組み合わせている可能性がある、という推測です。

研究で分かっていること

成人のPTSDに対する鍼のランダム化比較試験をまとめたメタ分析では、鍼を受けた群でPTSD症状が軽くなる傾向が報告されています。ただし、エビデンスの質は「非常に低い」から「低い」と評価されており、効果を示す研究はあるものの、研究の質が低く、まだ確定できないという結論です。

戦闘に関連したPTSDの退役軍人を対象に、偽鍼を対照にしたランダム化比較試験では、本物の鍼の群のほうが、偽鍼の群より症状の改善が大きいと報告されています。ただし、偽鍼の群でも一定の改善がみられました。

確度:経験的示唆。拷問を受けた方を対象にした研究や、1回だけの鍼でPTSDが回復したとする研究は、今回の文献検索では確認できませんでした(未検証)。

PTSDは、強い恐怖や衝撃の体験のあとに、フラッシュバック、不眠、過度の緊張などが続く状態です。あなたのせいではなく、脳と体が強いストレスに反応した結果として起こるものです。鍼は、治療の選択肢の一つとして研究されている段階で、標準的な治療に置き換えるものではありません。

動画との違い
動画では、1回の鍼でトラウマも抑えられるような流れで話しましたが、研究で確認できたのは、複数の試験をまとめたときに症状が軽くなる傾向があるという段階で、質も高くありません。1回で回復するという根拠は、確認できませんでした。

鍼で対応できないもの・注意点は?

動画で話したこと

動画では、体の中の炎症や脱臼、爪を剥がされるような損傷は、鍼で回復させることはできないと話しました。また、電気鍼や戦場鍼を日本でしっかり行っている院は少ないため、希望する場合は事前に問い合わせるとよい、とも伝えました。

研究で分かっていること

大規模災害後のトラウマ関連の精神障害に対する耳鍼を調べたシステマティックレビュー(複数の研究を系統的にまとめた研究)では、耳鍼に関連した重篤な有害事象は報告されていませんでした。ただし、研究の数が限られ、質も高くないため、有効性や安全性について結論を出すことはできないとされています。

確度:経験的示唆(重篤な有害事象の報告がなかったという範囲)。

鍼は、骨折・脱臼・感染・強い炎症など、医療機関での処置が必要な状態の代わりにはなりません。次のような場合は、先に医療機関を受診してください。

  • ケガをして強い腫れ・変形・動かせない痛みがある
  • 発熱や急な体重減少、激しい痛みが続く
  • 眠れない・気分の落ち込み・フラッシュバックが続き、日常生活に支障が出ている(精神科・心療内科などへの相談をおすすめします)

電気鍼を受ける場合は、ペースメーカーなど体内に電気機器を入れている方、妊娠中の方、出血しやすい薬を飲んでいる方は、必ず事前に伝えてください。

※電気鍼・戦場鍼の施術を行っているかどうかは、院によって異なります。事前に問い合わせてご確認ください。

ドラマと日本の鍼灸の歴史は?

動画で話したこと

動画では、鍼には2000〜3000年ほどの歴史があり、江戸時代に日本独特の鍼治療が確立して現代に伝わっている、と紹介しました。中国・韓国・台湾などでは、鍼灸師や漢方医がドラマに登場することが多く(韓国の「チャングムの誓い」など)、日本でも、鍼灸や漢方が歴史の中にあったことを、ドラマの演出を通して知ってもらえたらうれしい、と話しました。

日本への鍼灸の伝来は、一般に飛鳥時代から奈良時代にかけて、中国や朝鮮半島の医学とともにもたらされたとされています。平安時代には、医学書『医心方(いしんぽう)』がまとめられ、鍼灸の記述も含まれています。江戸時代には、日本独自の鍼の技術が発展しました。

また、鍼灸師になるための制度は国によって異なります。日本では、はり師・きゅう師の免許は、養成施設(専門学校や大学など)で学び、国家試験に合格して取得する制度です。動画では、中国・韓国・台湾などでは大学で学位課程を修めた人が担うことが多い、と紹介しました。制度の違いが、鍼灸の社会的な位置づけや、ドラマでの描かれ方の違いにも関わっているのかもしれません。

動画との違い
動画では「日本には平安時代から鍼が入ってきた」と話しましたが、正しくは、飛鳥〜奈良時代に伝来したとされています。平安時代は、伝来した医学が整理され、『医心方』のような医学書がまとめられた時期です。

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よくある質問

VIVANTで黒須を回復させた鍼治療とは、どんな治療ですか?

作中の具体的な手技は明らかにされていません。動画では、描写から「深く刺す鍼に高密度の電気刺激(電気鍼)を組み合わせ、心のダメージには耳鍼(戦場鍼)を使っている可能性がある」と推測しました。ドラマの演出であり、現実にそのまま同じ結果が得られるとは限りません。

戦場鍼とは何ですか?

耳の特定の5か所に、使い捨ての小さな針を数日間留置する耳鍼の方法です。アメリカ軍の医療現場でも使われてきたと紹介されており、研究の中心は痛みです。PTSDなどの心の症状に対する効果は、まだ確かめられていません。

電気鍼で痛みは取れますか?

電気鍼で痛みが軽くなる可能性を示す研究はあります。今回引用した研究では、動物実験で体内のオピオイドが関わることが示されています。人での確認は、今回の引用の範囲には含まれていません。効果には個人差があり、すべての痛みに有効とは言えません。

鍼1回で大きく回復しますか?

1回の鍼で痛みが一時的に軽くなる可能性はありますが、1回で大きく回復することを示した研究は確認できませんでした。多くの場合、体の状態に合わせて継続的に整えていきます。

鍼はPTSDに効きますか?

鍼がPTSDの症状を軽くする可能性を示す研究はありますが、研究の質が低く、まだ確定していません。鍼は標準的な治療の代わりではありませんので、つらい症状が続くときは、精神科や心療内科などの医療機関に相談してください。

電気鍼や戦場鍼は日本で受けられますか?

動画では、日本でしっかり行っている院は少ないと紹介しました。施術の可否は院によって異なりますので、事前に問い合わせて確認してください。ペースメーカーを使っている方や妊娠中の方は、必ず事前に伝えてください。

妊娠中でも電気鍼や鍼は受けられますか?

妊娠中は、体調や時期によって避けるべき刺激や、控えたほうがよい施術があります。電気鍼や耳鍼を含め、受けるかどうかは自己判断せず、必ず事前に妊娠していることを鍼灸師に伝え、主治医にも相談してください。

日本に鍼灸はいつ伝わりましたか?

一般に、飛鳥時代から奈良時代にかけて、中国や朝鮮半島の医学とともに伝わったとされています。平安時代には医学書『医心方』がまとめられ、江戸時代に日本独自の鍼の技術が発展しました。

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監修

木もれび鍼灸院/ツボ塾 代表

弓削 周平(ゆげ しゅうへい)

保有資格
  • 鍼灸師(はり師・きゅう師)
  • 日本東洋医学会会員
経歴
  • 2002年 明治東洋医学院専門学校卒業
  • 2011年 長春中医薬大学卒業(中医学士)
  • 2014年 木もれび鍼灸院開業

参考文献

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